直木賞と本屋大賞をダブル受賞したことであまりにも有名な、恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」を紹介します。
社会人になって、いつからかビジネス書や心理、人文、思想といったジャンルの本ばかりを読むようになっていました。
自分の中では現実の世界こそがすべてで、フィクションである小説に対する関心はいつしか失われていました。
物語を楽しむ余裕がなかったのかもしれません。
本屋大賞などのシステムも、どうだかなぁ~なんて思っていました。
最近身の回りのことが落ち着いてきたからか、ツイッターで読書アカウントの人のツイートを見ていたからか、本屋に行って本書を手に取りました。
ピアノのコンクールにまつわる話というのは、事前に知っていました。
音楽を題材にした作品は、小説のみならず漫画でも多く見られます。
ただ、蜜蜂と遠雷は普段なじみのないどころか、なぜか苦手意識のあるクラシック音楽。
久しぶりに読む小説への複雑な気持ちを胸に、ページをめくりました。
4人の若きピアニスト

本作は国際コンクールに挑む4人の若きピアニストたちの葛藤や成長を描いた青春群像小説です。
出場するのは「芳ヶ江国際ピアノコンクール」で、一次予選、二次予選、三次予選、本選の4部で構成されます。
4人のピアニストが予選を勝ち進んでいく物語ですが、そこで描かれる音楽家として生きていくうえでの不安や葛藤。
華やかなステージに隠された、ピアニストのリアルな世界が描かれています。
音の緻密な描写

本書を読んで驚いたのは、その表現力です。
私は「BLUE GIANT」(石塚真一さん)という漫画が好きなのですが、この漫画は「音が聞こえる」とよく言われます。
それくらい臨場感のある描写だということなのですが、それは漫画だからできることだと思っていました。
視覚に訴えることで脳が錯覚して、まるで音が聞こえるように感じる。
小説では文字しかないので、そんなことはないだろうと思っていましたが、それは間違いでした。
「蜜蜂と遠雷」からも、音は聞こえてきます。
どうしてそんなことができるのか、この緻密な描写がなぜできるのか。
ただ想像力が豊かなだけでは、決して書くことができないであろう表現の連続。
少し調べてみると得心しました。
実際に存在するピアノコンクールに4回も取材に行かれていたのでした。
3年に1回、開催される浜松国際ピアノコンクールへ2006年第6回から2015年第9回まで、途中からは執筆に並行して、4度取材。毎日、会場の座席で午前9時から夕方までピアノ演奏を聴き続けたことが、この小説に結実した。物語の中で、「才能とは何か」を問う。演奏を聴き、才能というのは「続けられる」ことで、あらゆる仕事に共通し、ある種の鈍感さ、しぶとさを持った人が才能のある人だと思ったという。
(蜜蜂と遠雷 - Wikipediaより引用)
これを読むまでフロイトやフロムなど、ゴリゴリの文字と戯れてガチガチになっていた私の脳みそが、シュワシュワと音をたててほぐれていきました。
(語彙力が乏しくすいません)
読後に感じたこと

改めて音楽っていいな、そしてピアノってすごいなぁと思いました。
よくよく考えてみると、10の音を同時に出せる楽器というのは他にないように思います。
だからこそ他にない魅力がピアノにはあります。
本書を読み終えた後に、実際にクラシック音楽を聴いてみました。
たしかに同じ曲でも演奏者によって受ける印象が異なる。
ピアノのもつ表現の幅に驚かされました。
今はコロナ禍で、なかなかコンサートには行けませんが、落ち着いたら生の音を体験しに行こうと思います。
そしてしばらくは物語の世界につかるため、小説を読もうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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