さて、前回の記事では、「仕事選びでのタブー」を処方しました。
今回は引き続き、鈴木裕さんの著書「科学的な適職 4021の研究データが導き出す最高の職業の選び方」をもとに
「幸福度の高い仕事を選ぶための7つの問い」についてご説明したいと思います。
本書は世界中の大学などの研究機関が出した文献に基づいた、科学的根拠のある結果でのみ構成されている、信憑性の高い良書です。
・就職、あるいは転職を考えている方
・職場に不満を抱えている方
・職場の雰囲気を良くしたい方
それでは早速7つの問いを紹介していきたいと思います。
①自由:その仕事に裁量権はあるか。
改めて考える必要はないと思いますが、自由を拘束されて喜ぶ人はいないでしょう。
仕事の幸福度を左右する要素について1380人を対象に調べた、台湾のグループの研究では
職場での自由度が高くなるほど、仕事への満足度は下がって離職率が減り、ストレスがネガティブな感情になりにくい傾向がみられました。
当然、仕事の自由度といっても、何にもとらわれない無制限の自由が許される仕事は存在しません。
フリーランスといっても、取引先や納期などの制限はあるでしょう。
そこで、最低限押さえておきたい自由度が二つあります。
労働時間はどこまで好きに選べるのか。
在宅勤務やリモートワーク、フレックスタイム制導入の有無によって
仕事に取り組む場所とタイミングなど、「環境」に関する裁量権が、自分に与えられることになります。
時間や場所が強制的に組められているよりも、個人の裁量にゆだねられている方が幸福度は上がります。
仕事のペースはどこまで個人の裁量にゆだねられるのか
また、取り組んでいる仕事の締め切りや取り組む順番など、「時間」の自由度についても、幸福度を上げる要素になります。
締め切りや順番が上司やマニュアル、慣習によって決まっている職場では、幸福を感じにくい傾向にあります。
②達成:前に進んでいる感覚は得られるか。

ハーバード大学が「仕事のモチベーションを上げる最大の要素は何か」を調べるため、238人のビジネスマンを対象に、12000時間を超えて記録を取りました。
その結果を一言でいうと、「モチベーションが最も高まるのは、少しでも仕事が前に進んでいるとき」でした。
やる気を左右する要素は大小様々ですが、最も影響があるのが、仕事が前に進んでいる感覚だったのです。
ではどうすればその職場において、仕事が前に進んでいる感覚得られるかどうかを、調べられるのか。
それについては
仕事のフィードバックはどのように得られるか
を問うてみましょう。
仮に、ある仕事を行って、そのフィードバックを得るには1か月がかかるとしましょう。
仕事の成果を得るまでにあまりにも時間が空いてしまうようでは、目の前の仕事に対するモチベーションは向上しにくいでしょう。
ゴールがはっきりしており、フィードバックが即座に得られるような仕事は、モチベーションを保ちやすく、幸福度の上昇につながります。
③焦点:自分のモチベーションタイプに合っているか。

人間のパーソナリティを「攻撃型」と「防御型」に分けて、そのパーソナリティが仕事のパフォーマンスアップにつながるかを、コロンビア大学が調査しました。
その結果パフォーマンス効果は認められ、モチベーションタイプによる分類が、適職探しに役立つことが明らかになりました。
「攻撃型」
目標を達成して得られる「利益」に焦点を当てて働くタイプ。競争に勝つのが好きで、金や名誉などの外的な報酬に強い影響を受ける。
常に大きな夢を持っており、仕事を効率的に進める意志が強い。
基本的にポジティブだがその分だけ物事を突き詰めて考えず、準備不足のまま事を進めようとするのが難点。
作業がうまくいかないと、すぐに気落ちする傾向もある。適した職業:コンサルタント、アーティスト、テクノロジー系、ソーシャルメディア系、コピーライターなど進捗や成長を実感しやすい仕事。
(「科学的な適職 4021の研究データが導き出す最高の職業の選び方」(鈴木裕)をもとに 作成)
「防御型」
目標を「責任」の一種としてとらえ、競争に負けないために働くタイプ。自分の義務を果たすのが最終的なゴールで、できるだけ安全な場所に身をおこうとする。
失敗を恐れる傾向が強いため、仕事ぶりは正確で注意深く、ゆっくりと着実に物事を進めていく。
最悪の事態を想定して動く傾向が強く、時間の余裕がない状況ではストレスが激増する。分析や問題解決力が高い。適した職業:事務員、技術者、経理係、データアナリスト、弁護士など安心感と安定感を実感しやすい仕事。
(「科学的な適職 4021の研究データが導き出す最高の職業の選び方」(鈴木裕)をもとに 作成)
どちらが良いということではなく、自分のモチベーションタイプはどちらに分類されるか、考えることが重要です。
そして、モチベーションタイプに合った働き方をした方が能力を発揮しやすく、仕事の満足度も高まるのです。
④明確:評価軸とビジョンははっきりしているか。

評価軸がはっきりしているとは、つまり成果と報酬が一致しているかということです。
近年要約「同一労働同一賃金」ということが叫ばれてきましたが、まだまだ年功序列でもらえる給料が増えていくような民間企業がたくさんあります。
会社に長く勤めていることが貢献度の尺度になり、いくら新入社員がアイデアや成果を出しても、給料が中堅社員と逆転することはありません。
あるいは、明らかに成果を出していない同年代の社員と、同程度の給料しかもらえません。
これだと不安は募るばかりで、仕事のモチベーションを保つことは難しいでしょう。
この評価体系と同時に大切なのが、タスクの明確さです。
今会社がどんな価値観で動いているのか、上司はそれに対してどう考えているのか。
会社内での自分の役割を明確にするには、会社上層部、上司、チームのビジョンが明確になっている必要があります。
今行っている仕事が何の役に立っているのかわからないようでは、仕事の満足度は上がりません。
これらの「明確さ」については、入社する前に知ることは難しいですが、採用面接や転職エージェントの面談などを活用して、チェックしておきましょう。
⑤多様:作業の内容にバリエーションはあるか。

どれだけ「アイデアを出すことが得意、好きだ!」という人でも、アイデアを出す仕事ばかりを求められるようでは息が詰まってしまいます。
たまにはデータを分析したり、書類を作成するなどの単純業務をやりたくなるでしょう。
このように、日常の仕事でどれくらい変化を感じられるかも、仕事選びの重要な要素になります。
- 業務の内容がバラエティーに富んでいるか
- 自分が持つスキルや能力を幅広く活かすことができるか
という2つの条件を満たす職場ほど、あなたの幸福度は高くなります。
⑥仲間:組織内に友人はいるか。

厚生労働省の統計によれば、「同僚と仕事やプライベートの会話で笑うことがあるか」という問いに「はい」と答えた日本人の数は30%にすぎず、
「会社内で信頼できる上司はいるか」という問いには87%が「いいえ」と回答しています。
このような傾向は欧米でもみられるため、仕事の人間関係で悩むのは世界的な現象なのです。
しかし一方で、アメリカの調査では、
- 職場に三人以上の友達がいる人は人生の満足度が96%上がった
- 職場に信頼できる友人がいる場合はモチベーションが7倍になり、作業スピードも上がる
といった傾向がみられました。
つまり、職場での信頼関係が築けていないだけに、職場の良い友人がもたらす仕事の満足度への影響は大きいのです。
そうなるためには、その組織に自分と似た人がどれくらいいそうか、という視点を持つことがおすすめです。
人間は自分と似た人間を好きになりやすい心理現象があります(類似性効果)。
これについても入社する前に知ることは難しいですが、企業訪問や面接の場面を活用することでチェックすることができるでしょう。
⑦貢献:どれだけ世の役に立つか。

シカゴ大学が5万人の男女を対象に「高い満足度を得やすい職業はどのようなものか」を30年かけて調査した結果を2007年に発表しました。
その調査の結果得られた、最も満足度の高い仕事のトップ5は以下のようになりました。
- 聖職者
- 理学療法士
- 消防員
- 教育関係者
- 画家・彫刻家
これをみただけでは共通点はないように思われますが、研究を行ったトム・W・スミスは
「満足度が高い仕事とは、他人を気遣い、他人に新たな知見を与え、他人の人生を守る要素を持っている」とコメントしています。
確かに上位にランクインした職業は、他者への貢献がわかりやすいものばかりです。
ではなぜ他者への貢献が、自分への満足度につながるのか。
それは、他者への貢献によって、人間が持つ3つの欲求が満たされるからです。
- 自尊心:人の役に立ったことにより、「自分は有能な人間なのだ」という感覚が生まれる
- 親密感:新設のおかげで他者と近くなった気分になり、孤独感から逃れやすくなる
- 自律性:「誰から支持されたわけではなく、自ら自分の幸せを選択できた」という感覚が生まれる
これらの欲求は人間が幸福を感じるためには欠かせません。
もちろん、人のためにならない仕事というものは原則ありません(違法なものを除けば)。
ここで大事なのは、あくまで「人の役に立った事実を可視化しやすいかどうか」です。
適職につきたいのであれば、「他者への貢献度」という視点を持ってみてください。
読後に感じたこと

資本主義社会の現代を生きる我々にとって、仕事というものは切っても切り離せないものです。
「仕事」という言葉が内包する意味は複雑で、かつ人それぞれ異なるでしょう。
そのようなものに対して、世界中で行われた研究をもとに「幸福を得るための最適解」を導き出した本書は、一読の価値があります。
私自身、一部上場企業に勤めていましたが、まさに幸福を感じることなく働いていた入社2年目のある日、本書を読みました。
初めは「科学的なんて胡散臭いなぁ」なんて思っていたのですが、読んでみて納得しました。
そもそも仕事を通して幸福感を味わうという視点が、当時の私にとっては衝撃でした。
そんなことがあり得るのかと、即座に購入して家で読みました。
この記事を書く前にも再読しましたが、読んだ人にとって幸せな仕事を選択するヒントになると、改めて確信しました。
人生をより幸福に満ちたものにするために、一度読んでみてはいかがでしょうか。
そのきっかけになれたら幸いです。
長文を最後まで読んでいただきありがとうございました。
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