この記事では若松英輔さんのエッセイ「言葉の贈り物」(亜紀書房)を紹介します。
若松英輔さんは1968年生まれ、新潟県糸魚川市出身の批評家・随筆家です。
若松さんはとても言葉を大事にされる表現者です。
人が生きていくうえで大切なことを、難しい言葉を用いずに、また奇をてらった表現も用いずに紡ぎだします。
エッセイであって、詩であり、歌でもあるような唯一無二の表現をされます。
本書「言葉の贈り物」は、そんな若松英輔さんが、人生で大事なことを24のエッセイで書き記したものです。
真理をつくものに、余計な装飾はありません。
シンプルで洗練された言葉をプレゼントしてくれます。
・人生で大事なことを知りたい方
・美しい日本語に触れたい方
・近々誰かに手紙を書こうとしている方
☑愛し(かなし)

本作品は贈り物という言葉が表題に入っていますが、決して明るく、希望に満ち満ちた内容ではありません。
現実は、いつも残酷なものです。そう思わないでしょうか。
真実は時に人を傷つけることを、身をもって経験したことがあります。
大学時代に同じ部活で汗を流した仲間と、忘年会をした時のことです。
詳細は述べませんが、ある友人が言った考えに違和感を覚えました。
お酒の席で酔いが回っていたこともあり、私は自分がこれまで考えて得た思想を、相手を批判するように言ってしまいました。
「これは人それぞれの問題だから、何が正解かは人による」というようなものではなく、一般的な最適解がすでに得られているような事柄でした。
私は自分が得ている最適解を悠然と語り、満足し終えて友人の顔を見た際、後悔の念にさいなまれました。
自分は真実を教えることが優しさだと勘違いしていましたが、そうではないこともあるのだと知り、己の未熟さを猛省しました。
この出来事以降、
- 自分が世の真理と思えるような思想でも、あまり人には言わないほうがいい
- 自分の頭の中にある考えを、人に伝えることは難しい
と感じるようになりました。
☑言葉の護符を贈る

ところが、私が難しいと感じたことを体現している本に出合いました。
それが「言葉の贈り物」です。
私が一人で落ち込んでいる一方で、これほどに(こう言っていいなら)シンプルな言葉づかいで真実を述べている本があったとは。
もっと早く若松英輔さんの書籍に出会いたかった。
いや、遅いなんてことはないはずで、むしろ幸運です。
若松英輔さんとの運命的な出会いを確信したのは、一つ目のエッセイ「言葉の護符」です。
愛する者には言葉を贈れ
その人を守護する
言葉の護符を贈れ
朽ちることなきものを
捧げたいと願うなら
言葉を贈れ
願いを込めた言葉ではなく
無私なる祈りにつらぬかれた
言葉を贈れ
その生涯を祝福する
言葉の護符を贈れ苦しい出来事があって、立ち上がることが困難なときでも、私たちは一つの言葉と出合うだけで、もう一度生きてみようと感じられることがある。
(若松英輔「言葉の贈り物」より抜粋)
別な言い方をすれば言葉は、人生の危機において多くの時間と労力を費やして探すのに、十分な価値と意味のあるものだともいえる。
このように、大切な人には言葉の護符を贈れ言う著者が書いた、「言葉の贈り物」というエッセイ。
若松英輔さんのコトバは、まさに言葉の護符として我が家の本棚に祀られています。
若松英輔さんの「コトバ」の真意を、一度で繙くことはできないでしょう。
何度も触れることで、沸き起こる感情は成熟していくように感じます。
この本を人にプレゼントすることも、言葉の護符を贈ることになるでしょう。
自分自身のために、大切な人のために、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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