この記事では、千玄室さんの著書「日本人の心、伝えます」を紐解くことで、今こそ大切にしたい日本人の在り方を考えたいと思います。
千玄室さんは茶道裏千家 第十五代家元・前家元を務められた方です。
裏千家、表千家と聞くと、茶道を知らない人でも一度は聞いたことがありますよね。
裏千家はあの千利休を祖とする流派の一つです。
千玄室さんは6歳のころ(1929年)から茶道の修行を始めます。
大学在学中には第二次世界大戦を経験し、実際に学徒出陣で徴兵され、特攻隊に編入されました。
幸い、特攻命令は出されず、終戦を迎えられました。
復員した千玄室さんは、ひたすらに茶の道を歩み続けます。
そして「日本人の心、伝えます」出版時は齢92歳、西暦は2016年。
茶の道を歩みながら、日本の敗戦から現代の発展までをその眼で見てこられました。
日本が豊かになる一方で、失われたものもあります。
それは「日本人の心」であり、千玄室さんはそれが失われていくことに警鐘を鳴らします。
・日本人の心の在り方を知りたい方
・茶道に興味がある方
・日本人であることにコンプレックスを感じる方
日本人の心①:おもてなし

2020年オリンピック・パラリンピックの開催が東京に決まったとき、日本ではおもてなしという言葉がもてはやされるようになりました。
マスコミでも大々的に取り上げられ、2021年現在でも、おもてなしという言葉が与えた影響は垣間見えます。
どこもかしこも「おもてなしムーブメント」が沸き起こった反面、「では今までもてなしてなかったのか?」と思ってしまいますが、そうではありませんよね。
相手をもてなす心は、日本古来より自然に行われてきた心遣いです。
わざわざ口にして、「おもてなししよう!」と言うようなことでは、本来ないはずです。
ではもてなす心はどこに宿るのか。
それは、相手の身になって振る舞おうとする気持ちです。
茶道では、一杯のお茶を点てるために、あらゆる作法をこなさなくてはなりません。
しかしその作法の一つ一つは、すべてお茶を差し上げる客人のことを想って生まれたものです。
茶碗を選ぶところから、部屋の飾り、お湯の温度から庭の手入れまで。
「ティーバッグのお茶でも十分おいしい」という人もいるかもしれませんが、お湯を注ぐだけの動作に心を込めることはできないでしょう。
なにも、「特別なことをしろ」と言っているわけではありません。
可能な範囲で良いので相手の身になって振る舞うことが肝要です。
心を込めてもてなされた方は感銘を受け、感謝の気持ちが心に残ります。
なんでも簡単便利な世の中ですが、相手を想い、振る舞いあう関係性を日常に取り入れたいですね。
日本人の心②:和敬清寂(わけいせいじゃく)

和敬清寂とは、茶道の心得を示す標語です。
主人と賓客がお互いの心を和らげて謹み敬い、茶室の備品や茶会の雰囲気を清浄にすることという意です。
この言葉を用いて、千利休は茶人とはどうあるべきかを示されました。
和敬清寂をもう少し一般的に解釈すると、
お互いを思いやる精神を持ち、敬いあい、心の汚れを自浄することを志すとともに、それらをゆるぎないものとする
といった内容になります。
戦後間もないころは、日本は貧しく、お互いが助け合わないと生きていけなかったため、相互扶助の関係ができていました。
時が進み現代では多くの人々が慈愛を「甘やかす」ことだと勘違いし、寛容を「見て見ぬふりをすること」だと思い込み、自己中心主義に走ってしまっています。
変化の激しい世の中だからこそ、自分さえよければと思う気持ちは理解できます。
しかしそのような自己中心主義が向かう先には、悲しい現実しかありません。
千利休が茶人としての在り方を込めた和敬清寂の心こそ、現代を生きる日本人が学ばなければいけない哲学であると思います。
読後に感じた事

現代の日本は、とかく海外から入ってきた文化や流行をありがたがる傾向にあると思います。
これはいつの時代からあったものなのか。
もしかしたら敗戦国として20世紀を過ごした、国民全体ののコンプレックスなのかもしれません。
なんとか欧米諸国に追いつこうと目覚ましい経済発展を遂げた日本ですが、目標を達成した今、
次に何を目標にしたらいいかわからず、国策も精彩を欠き、迷走しているように感じます。
これからは日本独自のカラーを出して、豊かな暮らしを求めていいはずです。
アメリカのようなメガIT企業が多数生まれる必要もないでしょう。
私達島国に生きる日本人が脈々と受け継いできた文化、思想をそのまま強みとして生かしていく。
そうして生まれた芽を育てれば、自然と自国の経済発展へと繋がるでしょう。
「日本人の心、伝えます」では、他にも様々な日本人の心が紹介されています。
- わびさび
- 不完全の美
- 知足安分
日本人であるならば知っておきたい和の心を知りたい方は、本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
それでは失礼します。
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