今日は李龍徳さんのデビュー作であり、第51回文藝賞受賞作「死にたくなったら電話して」を処方します。
一般的には、死というものはよくないことだととらえられています。
しかし誰にも等しく訪れるものでもあります。
マイナスなイメージのものを、ただ良くないことだとするのはいかがなものでしょう。
むしろポジティブにとらえて向き合うことの方が重要ではないでしょうか。
また誰しも一度は、死んでしまいたいと思ったことはないでしょうか。
とりわけ、思春期などに。
私はあります。
「死」をテーマにした作品は多くありますが、「死にたくなったら電話して」は、これまで私が触れてきた作品のどれとも異なるものでした。
・破滅したい欲望にかられたことがある方
・虚無感を感じている方
・恋人がいる方
人類って本質的に愚かなんだな

現在、地球上には約78億人の人間がいます。
今生きているというだけでもこれだけいるのですから、歴史上地球に誕生した人類の数となると、その数は計り知れないでしょう。
その人類の歴史を振り返ると、戦争や虐殺など、あらゆる愚かさを目の当たりにすることができます。
極端な例でなくても、窃盗、殺人、詐欺など、我々の日常は愚かな悪であふれています。
そのような現代では、希望を見失わずに生きることは至難の業です。
多くの人はこのことに気づいていない、気づこうとしない、気づいたとしても忘れられる盆暗です。
それが良いことでも悪いことでもなくて。
主人公である徳山は、大学受験を二度失敗し、絶賛三浪中のフリーターです。
ある日、バイト先の友人に連れられて行ったキャバクラで、初美というキャバ嬢に出会います。
とことん行くところまで行っちゃってください

初美は上述の、人類の愚かさを熟知しています。
初美と知り合ったことで徳山も、そのことを知らずにはいられなくなります。
そしてそんな二人が向かう先には何があるのか。
安心して、ぐっすり寝ましょうよ。いったん寝てしまえばもう、誰も恨まずに誰も妬まずに、何も恐れず何も嫌悪せず、何ものからも脅かされない。
(「死にたくなったら電話して」 (河出文庫)より引用)
(中略)
未来の心配はない。未来そのものがない。過去の傷も奇麗に消える。すべての傷と、流された血がなかったことになる。歴史が無くなる。宇宙の法則が無くなる。すっかり無になる。
読後に感じたこと

この物語の最期は、何とも静かなものでした。
まるで、これまで乱高下していた心電図が、ぴたりと音もなく停止したかのような。
「文学のスキャンダル」と称されるにふさわしい、味わったことのない衝撃でした。
あまりにも無であることに対する衝撃。
万人に好まれる読み物ではないと思いますが、背後から殴られたような読後感を味わいたい方にはおすすめの一冊です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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